それ何か関係あるんですか?

時代はどんどん変わり、多様性が認められ、女性の社会進出も徐々に進み、女性が働いて男性が家庭に入ることが一つの常識になりつつある現代。

でも、一般的にはまだ男性が家族を養うという傾向が日本では強い。

 

したがって、経済力の無い男性は結婚すら困難である。

 

「年収200万程度しかない男性は結婚が難しい」

 

そういった記述があちこちにみられるし、実際、そんな男には女性もついてこないのかもしれない。

 

だがこれが地方にいくとそうでもなくなる。

 

夫が働かずに、昼間っからパチンコといったギャンブルやスマートフォンのゲームに興じ、奥さんが昼も夜も仕事掛け持ちで働く、といった夫婦を割とよく見かける。

 

世界の貧しい国でも似たような傾向が見られ、例えばジャマイカの男は働かないくせに家庭を持っていて、それなのにシングルのふりして平気で女性を口説くらしい。

 

僕の周りには働かない男はまだいないが、昔の同僚に、なかなかだらしがない男がいた。


彼の名前をここでは珍カスとしよう。


珍カスは僕よりも年齢は4つほど上で、30過ぎて年上の女性と結婚し、子をもうけ、奥さん側の両親が保有するアパートの一室を無償で借り受け、生活していた。

 

奥さんは働いていたのか分からないが、珍カスは僕と同様に契約社員として勤め、なぜか我々は気が合ったために定期的に飲んだりしていた。

 

とある日、合コンを開催する事になり、男性側の頭数が足りなかったため僕は珍カスが家庭持ちと知りながらも誘う事にした。

 

「行く」

 

二つ返事で快諾した珍カスは合コン当日、颯爽と店の前に現れ、自信たっぷりに、財布の中身の福沢諭吉を数枚僕に見せてくれた。

 

アコムしてきたんだよ」

 

と、ニコッと笑い、それはつまり、消費者金融から金を借りてきたということなのだが、なぜそんなにお金を持ってきたかというと、女性をお持ち帰りするつもりできたらしい。

 

僕は思わず笑ってしまったが、合コンそのものはまあまあ盛り上がった。

 

そして定番の連絡先交換。

その当時はLINEがまだメジャーでなく、E-MAILアドレス交換をしていて、そんな中なぜか、珍カスが女性との連絡先交換を渋るのだ。

 

我慢できずに合コンに参加した一人の女性が珍カスの携帯を取り上げてメールアドレスを確認すると、

 

「〇〇〇(奥さんの名前)dakeoaisu@dokomo.ne~」

 

とあった。

 

これには一同大爆笑で、珍カスは浮気をする以前に、全く奥さんから信用されていなかったのだ。

 

極めつけは、後日分かったのだが、合コンの日はどうやら珍カスの子供の誕生日だったらしい。

忘れていたようだ。

 

「なぜ誘ったんだ」

 

と、僕はどやされたが、そもそも忘れた方が悪いはずで、あまりのだらしなさに呆れて笑うしかなかった。

 

そんなこともあった後、珍カスと僕の上司と三人で飯を食っていたときに、その上司が珍カスに対して

 

「お前も子供がいるのなら、そろそろしっかりして、契約社員じゃなくて正社員目指して働いた方がいいな」

 

と、やや説教じみた内容で珍カスを諭したところ、

 

「それ、何か関係あるんですか?」

 

と珍カスはそう応え、その一言で上司を黙らせてしまった。

 

そう、彼には何も関係ないのだ、子供は子供、家族は家族。

 

そして、自分は自分なのだ。

 

無責任なことこの上ないという見方も出来るが、別の見方をすれば、ここまで自分の本心に従って生きている人間もなかなかいない。

 

人生において、何か別の道を選択する際に、「家族がいるから」「子供がまだ小さいから」ということが理由の一つになったりするが、同じ状況でも自分の可能性に賭け、新しい道を歩む人間もいる。

 

勿論、家族を養わなければならない責任があるだろうしそれは大事なことだから、どちらが良いとか悪いとか、家族の無い僕にはとやかくは言えない。

 

合コンのために消費者金融から金を借り、奥さん以外の女性に肉体関係を求め、子供の誕生日まで忘れてしまうような、だらしない男代表みたいな珍カス。


だが彼は常に今を愉しく生きていたし、また決して、子供を愛していない訳では無かった。

 

もしかすると、自分の人生を選択する時に、家族や子供は、その選択を "しない" 理由にはなり得ないのかもしれない。