映画ナイトクローラーは新しい形のサクセスストーリー

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事件や事故現場に急行して捉えた映像をテレビ局に売る報道パパラッチとなった男が、刺激的な映像を求めるあまりに常軌を逸していく。

 

 

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ジェイクギレンホールの絶妙な演技が光る内容だが、毎日のようにこの映画ばかり見ている。

 

観ていてすぐに感じたのは、ストーリーにはないが、ジェイクギレンホール演じる主人公のルー・ブルームがサイコパスの片りんをみせていること。
表向きは魅力的、良心と恐怖心の欠如、サイコパスの分かり易い特徴としてはそういったものが挙げられるが、ジェイクギレンホールが見事に演技だけで体現しているし、
時折見せるゾッとするような表情と、対面する相手に対して親しみを込めた笑顔を見せるそのギャップがまた絶妙。

 

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ネット上でも本作品がサイコパスの内容を帯びていることを前提に語られている感想が多い。

 

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金もコネも学歴すらない一人の男が、ナイトクローラー(パパラッチというらしい)としてのし上がっていく様は、資本主義の最下層に生きる者が、通常の方法で成功をつかみ取ることがいかに難しいことかを描き、常軌を逸した報道スタイルや過激な内容を好む視聴者をも巻き込み、経済社会と密接に絡み合った人々の過剰なまでの刺激思考についての問題提起も帯びた作品となっている。

 

再生回数を稼ぐために人道的価値観や倫理観をかなぐり捨て、常に刺激的な行動に出るYouTuberと共通する点もある。


この映画の細かな見どころとしては、主人公が筋金入りの人間嫌いで、部屋で一日中テレビやネットを見て過ごし、テレビを前に一人笑うシーン。

 

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僕は先日、人間は社会的な生き物で孤独ではいられないはずだ、ということを書いたが
世の中には孤独を好む人間も実は割といることを丁寧に描いていてそういった面でも面白い。


そんな孤独な男が、ビジネスとして取り組むパパラッチ業においてスクープを取り逃した部下を前に、

 

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「いいか、研究によれば協力が不可欠な組織では、魚の群れも、ホッケー・チームもそう、成功に至る一番のカギはコミュニケーションなんだ」

 

と説く姿も、孤独を好む人間でもコミュニケーションが重要であることは認識しており、彼がただの人間嫌いではなく、また決してバカではない、むしろ頭の切れる人物であることも感じさせる。

 

「恐怖(FEAR)とは何かわかるか?」

「本物に見える偽の証拠 False Evidence of Appearing Real - (F.E.A.R) 」


誰が言ったのか分からないが、格言めいた言葉を引用するシーンもあり、恐怖心が欠如しているサイコパスが言うのもまた皮肉だ。

 

セックスシーンはないものの、倍近い年上のやり手プロデューサー女性を口説くのでなく、視聴率と引き換えに「友人として寝る」ことを交渉するシーンも面白い。

 

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当然女性は反発するが、「それは違う、友達は自分に対する贈り物だろ」と、良く分からない持論を展開し、笑顔で懐柔する。

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この映画の結末は万人に受け容れられるものでは無い、とはいえ、新しい形のサクセスストーリーと位置づけられ観る者を全く新しい感覚に陥れる良作といえる。

 

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かつて世界経済の頂点にあったアメリカ合衆国では、「貧しくても努力すれば成功できる」という、いわゆるアメリカンドリームと呼ばれる価値観が根差し、それが貧富の差を抱える同国が推進する原動力にもつながっていたことは間違いない。


だが、中産階級は没落し、経済は衰退。

強いアメリカを取り戻すと約束して誕生したトランプ大統領の背景にある、復活を信じる、今は貧しくなってしまったアメリカ白人の悲哀にも通じる。


この映画はまさしく、没落した現代のアメリカ合衆国の、アメリカンドリームを描いたものであり、風刺画的な意味合いも持つと個人的には思う。