人間は過去には戻ることが出来るのではないか

タイムマシンと未来に関する人類の未知への挑戦は、今も昔も人々にロマンを感じさせる。

 

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現実的には、未来に行った人間もいなければ、過去に戻った人間もまだ存在しない。

 

僕が過去に戻れる、と表現したのは、物理的なものとしてではなく、精神的な部分、人間の内面の部分を指している。


先日、仕事中にラジオを流していると、たまたまそこから懐かしいメロディーが流れてきた。

 

"どうしてそんなに難しく考えて..."

 

と、そう唄うのはカナダ人の女性シンガーで、彼女が奏でるラブソングは当時、
世界中の若者を魅了し、そしてその曲を前に多くのカップルが愛を語り合った。
もちろん僕もだ。

 

女性シンガーの曲のメロディーがほんの少し流れただけで、心の中にある "何か" が反応し、僕の精神はあっという間に当時の心境を呼び戻し、その世界に引き込まれてしまった。

 

当時悩んでいたことや付き合っていた恋人、人生観や仕事について、そして今はもう会うことはないその時の友人たち。

記憶の片隅に押しやられ、むしろ忘れかけていたものが次々と頭を駆け巡り、美しい面ばかり映し出されるから、それらのものは僕の胸を埋め尽くし、圧倒し、ついには破裂しそうになってしまう。

 

あの時に受け止めていた感覚を、精神が成熟した今の自分が感じるのは本来おかしいことで、それを自覚してもいるから戸惑ってしまう。

 

9月で多少肌寒くなってきたから、ということもあるのだろうか。

 

だが、こういう感覚はきっと僕だけではなく、大勢の人間が感じていることだろう。

 

誰もがその "一瞬の出来事" をひた隠し、またすぐに現実へと戻っていく。

 

こうして考えてみると、この不思議な感覚はまさに "過去に戻った" という表現が最も近いと思う。


とはいえ、人間の脳、というか、心の凄いところは、メロディーに限らず、特定の映画を観たとき、場所を訪れたとき、あるいは覚えのある香りが漂い始めたとき...何が過去に戻るスイッチになるのかは分からないが、それらのスイッチに敏感に反応するのだ。

 

スイッチはある、必ずある。

 

それがふとした拍子に、または幾つかの偶然が重なってスイッチが押されると、一瞬で過去に戻ってしまう。

 

僕の場合は意識して押そうとすることはあまりなくて、上述のようにラジオから突然メロディーが流れてきて反応した、ということが多いように思う。

 

いずれにしろ、この感覚は決して嫌いではない。

 

年齢を重ねるとともに、同じ感覚を味わうことは出来なくなるし、人類が過去や未来に旅行する日が訪れるのは、まだだいぶ先だろうから。