営業マンは空気を読めない、読まないのかもしれない
モノを売るという行為について、言葉の魔術師のような人間は確かに実在するようで
例えば消えた年金問題で話題となった、AIJ投資顧問の代表である浅川和彦氏は、元野村証券のトップセールスマンで鳴らし、入院していた時も同じ病室内の患者をラジオ片手に投資話に巻き込み、自分の顧客にしてしまうほどだったようだ。
トップセールスマンのイメージとしては、言葉巧みに人に寄り添い、心理術に長け、ありとあらゆる手を尽くし買わざるを得ない状況、または買いたくなるように仕向けるものだとばかり思っていた。
だがこれまで生きてきて様々な営業、マルチの勧誘を受けてきても、一発で買う気にさせられたことは一度も無いことを考えると、一度会っただけでモノを買わせてしまう優秀なセールスマンはほんの一握りで、稀有な存在であることは間違いない。
実際には、地道に顧客との関係性を徐々に築いていきながら、そうして段階を踏んで最終的に契約まで結ぶ、というのが殆どだろうと思う。(主観ですが)
無論、価格帯や売る商品によっても異なるだろう。
昨年、金融業に勤めているトップセールスマンの部類に入るくらいの人間と飲んだが、彼は空気を読もうとしておらず、気遣いもとくに秀でている訳ではないし、ちょっとした隙間があればグイグイ食い込んでいく強引さを、飲んでいる少しの時間でも感じた。
また、かつて個人事業主として稼いでいた女性も、「(営業して)断られたり、怒鳴られるのは当たり前」とケロリとした表情で答えた。
業界は異なるが、アパレル業界の女性と知り合った時も、
「うちの販売員はお客さんに積極的に話しかけなければいけない。私は躊躇してしまうが店長は空気なんか読まずにガンガン話しかける。でも、結果は店長の方が売上がダントツに良い」
と話していた。
こうして考えてみると、営業マンの条件として重要なことは、空気が読めない、あるいはあえて読まない、ということかもしれないと推測する。
僕自身、以前セールス職に就いていた時、突発的に入ってきた客から緊急の問合せを受け、その対応をきっちりと行った後に、自社商品を売り込むために抜け目なくセールスを実行したことがある。
「いまは緊急の話をしているので」
と、その時は顧客にやんわりと断られ、暗に "あなたは空気が読めない" という点をたしなめられた。
だが当時の僕の事情としては、顧客との関係性を構築するにしても、その商品とビジネスの性質上2回以降コンタクトを取るのが非常に難しく、かなり困難を極めるが一度で見込み客くらいまで持って行かないといけないくらいのセールススタンスだったために、どうしても数打てば当たる方式で片っ端からセールスしてまわる、以外に最上の方法が無かった。
とてもではないが空気なんて読んでいられない、誰がお金を持っているかなんて話してみなければ分からないし、こちらも給与がかかっているので必死だ。
他からも営業経験者の話を聞いていると、お客さんに水をかけられた、塩をまかれた、灰皿を投げられた、そういったことは序の口であり、営業マンも武勇伝のように嬉々として語るところがあって聞いている側としても思わず苦笑してしまう。
たとえ灰皿を投げられたとしても、翌日、何事も無かったかのような顔をして参上するくらいの厚顔無恥さというか、ハートの強さがないと恐らくやっていけないようだ。
それは、国民や日本中から批判を浴びても辞めない議員の顔の皮の厚さとも通じる。
江戸時代には親が風俗に娘を売るのは普通のことだったようだが、
ウォール街では、金のためなら親まで売り飛ばす金融マンもいるほどだと揶揄される。
親が子を売り、子が親を売るくらいになると、もはや空気を読む、読めない、読まないの問題ではなくて、強欲 "GREED" の領域になるが、いずれにしろ、空気を読んでいると、自分の心の中で「こんな商品を売りつけていいのだろうか」といった葛藤が生まれ、どうしても躊躇してしまう。
躊躇してしまうと、何も売ることが出来ない。
巷では "空気の読めない営業マンはNG" という見方が多い様だが、繊細で人の機微に触れることが出来たとしても売れているとは限らない。
個人的な見解としては、ホットドックを食べている客に対しても、笑ってハンバーガーを突っ込んでくるくらいの厚顔無恥さ、強引さ、そういったものが必要な気がする。