一瞬の勝負と経済効果

全国一をかけた高校野球夏の甲子園が始まる。

 

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夏の高校野球が始まるというので、にわかにその話題でスポーツ紙面は賑わいをみせている。


上記の記事によれば、高校野球による経済効果は350億円と推定されるようだが、デフレと低成長が続くこの国でそんなお金の流れが起きる、というのはなかなかイメージ出来ない。


だが高校野球におけるマーケットは、実態はずっと大きい。


例えば、彼等のような球児を支えているのは両親であり、学校であり、時には地域でもある。


親は子供のために道具を揃え、強豪高へ進学させるために時にはその費用を捻出。無論、アルバイトなどは出来ないので、なに不自由なく高校生活を3年間送る費用だけでもその金額は計り知れない。

(一部の特待生は学費免除で生活費補助もつくらしいが)


学校も金と時間を使って全国から有数な選手を集めるし、地域の自治体も球児たちが他府県へ遠征する時には何かしらその費用を負担する。


ざっと書いただけでも、背後で動く金の流れは決して小さくないが表にはでない。


それだけでなく、高校野球は裏のマーケットとしては賭博の対象であり、金額に換算するのは難しい。


数年前に野球賭博が少なからず衝撃を与えたが、ああいったものは氷山の一角であり、随分と前から高校野球が賭博の対象となっていたことは関係者からすれば常識だ。


こうした面を踏まえると、確かに経済効果は大きい。


一方で、甲子園を目指すほどの高校野球球児の、野球に懸ける意気込みというのは凄まじいものがある。


ある甲子園優勝校のエースピッチャーは、真夏の投球に耐える身体を造り上げるため、30℃近くになる猛暑日に更にサウナスーツを着用し、200球近く投げ込んだ。


熱射病で倒れてしまうと本末転倒のため、その境目をぎりぎり目指し極限まで追い込んだ練習法は、やはり息を飲むものがある。


だが、野球中心の高校生活という点でいえば、優勝校に限らずある程度の実力を持った学校ならばそれは例外ではないだろう。



僕は高校時代、野球強豪高に進学したのだが、野球部にこそ入らなかったものの、彼らの一日が多忙を極めることは端から見ていてもよくわかった。


朝四時から五時には起床して通学し、朝練をこなし、午後にはもう練習の準備を始め、それは夕暮れ後も続く。


空いた時間はビデオを見たりしながら競合高校の研究に費やす。


中には授業中に手首の筋トレをする友人までいた。


文字通り彼等は朝から晩まで練習に明け暮れ、全てが野球中心であり、それ以外の高校生活におけるいわゆる "青春" に割く時間は皆無だ。


それだけやっても地方で8強に入るだけでもかなりの狭き門であり、甲子園ともなると針の糸を通すようなもの、もしくはそれ以上なのかもしれない。


そんな球児たちが繰り広げる試合が注目に値しないわけがなく、地方予選ですら対戦カードによっては熱視線が注がれる。


これだけの人と金を動かす高校野球だが、なぜ絶大なる人気を誇るのかといえば、やはり目の前で繰り広げられる試合が真剣勝負だからだろう。


真剣過ぎるがゆえに、甲子園などはあまりに張りつめた空気で会場から解説者まで沈黙してしまうこともしばしばだ。


また、金で集めたタレント揃いの強豪校が必ずしも勝つわけではない、という点も高校野球ファンが耐えない理由だろう。


「人生の大事は5分で決まる」


かつて大ヒットした金融映画のウォール街におけるチャーリーシーンの台詞だが、高校野球はまさにこれに等しく、一瞬で勝負が決することもあり、その一瞬のために全てを懸ける彼等のプレーは多くの人を無条件に魅了するのだ。