お金のある不幸とお金のない不幸

朝のニュースで、高齢者がある一定以上の年齢を越えても"働き続けなければならない"
といった事象についてその内容が流れていた。

どちらも70歳を越えているある夫婦は、数年前までは自営業をしていたものの、
リーマンショックを境に客足が遠のき、止む無く店を閉めてしばらくはその頃の貯金で暮らしていたが、それも底をついたため、夫婦二人して毎日働いていた。
奥さんは朝も暗いうちから出ていき、食品工場のパートとして働き、夫は、やはり朝から20時くらいまで宅配トラックの仕事に就き、それで日々の口銭をしのいでいるといったもの。
自営だったためなのか詳しい事情は語らなかったが、年金を恐らく支払っていなかったのだろう。
受給資格はないため、「働けるうちは働かないと」と話していた。

 

もう一組の夫婦もやはり70歳を越えていて、夫が大手自動車メーカーを定年退職したのちにすぐに別の業界に転職するも体調を崩して倒れてしまい、今は何とか元気に過ごしているものの55歳の時に購入したマイホームのローンがあと10年程度残っており、やはり働かざるを得ない。
この夫は年金が大分あって、家のローンが無ければ恐らく生活はしていけるだろうが、
ローンが足かせとなりそうもいかない。
退職金はローンの返済に充てたそうで、手元には現金が無く、「子供はいるが、頼れない」と苦笑した。


他にも70歳以上の様々な方が、日々の口銭を得るために職業機会を多く求めているといった内容が流れており、"真面目に働いてきたのに、なぜ"といったニュアンスで番組は終わったのだが。

 

「稼いでいるうちに老後のことを考えて計画をしていなかったからだ」とか
「なぜある程度の年齢になって家を購入したのか」といった否定は簡単だが、
ただ、上記の番組の中の誰しもが派手な生活をしている訳ではなく、むしろ身の丈にあった生活を送っていたように見えた、今も昔も。

 

自営だろうが勤めだろうが、コツコツ働いて、家族を作り、子供を養い、家を購入し、安定した老後を送る。

それは、何も贅沢な望みではないが、それを実現するのが、今の時代は本当に困難になっている。

高齢者のその姿を見ているから、家族を作ることに躊躇する世代は確実に存在する。


だが僕の知り合いに、教員勤めだった夫婦がいて、定年退職後は手厚い退職金と年金、ローンを完済したマイホームで、それこそ悠々自適に暮らしていたが、夫が先だってからその生活は一変した。

残された奥さんは以前よりも行動的ではなくなり、唯一の娘は独身だがあまり一緒に住むことを好まないようで、お金だけはあるが、周りには誰もいない、という状況になっている。

だからたまに会うとマシンガンの如く同じ話を繰り返すが、もう、話す相手がいないのだろう。

そういった晩年を不幸と感じるかどうかはその人の主観によるところが大きいが、やはり切ない。
お金だけは、あるのだが。

 

一方で、前述した働きに働いている夫婦たちの顔には、悲壮感はそこまで無かった。
顔色も良かったし、どこか開き直っているように感じた。
むろん彼等も、どちらかが先だったときはまた状況が変わるだろうが、これだけ家族の形が複雑になってくると、思い描いたような老後が送れるとはもう限らない。

 

だから今から貯蓄に励んで老後に備えるか、というと、それもまた違う。

 

これからは刹那主義に走る人間がより一層増えるかもしれない。