ノイローゼからの脱却
ミャンマーから帰国して、数日経った後、僕はまず、自分自身を奮い立たせるためにすぐにHIV検査の予約を入れることにした。
複数回、検査を受ける事になるのだが、そのうちの初めは、100%の結果が出ることも無い、11月11日に受ける事に。
それは、これまでの自分の性行為に対しての結果を調べるのが目的でもあった。
というのも、ここ近年の日本では、 "いきなりエイズ" という感染例があるらしく、自覚も心当たりも無い中で突然、HIVではなくてエイズを発症してしまうものだ。
知らぬ間にHIVに感染していて、エイズを発症し、気付いた時には手遅れというパターンもあるらしく。
そういうわけで、僕の場合は3週間と1か月、そして2か月検査とまずは検査予約をして保健所で受けていった。
なかでも、3週間と1か月の検査が最も緊張した。
というのも、今の検査方法だと1ヶ月で陽性であればほとんどのケースが陽性の見方が強く、100%にするには3か月待つ必要があるが、それでも気持ちの分でかなり楽になることは間違いない。
1か月検査が完了するまではもだえるような日々を過ごした。
ネット上で様々な書き込みがあるように、それこそ、人生が180度それも全く違う方向に変わることなのだから当然ではある。
保健所でのやり取りは別で書いたのでここでは記さないが、1か月検査の時の結果待ちの際のあの何とも言えない緊張感は凄まじいものがある。
それも、担当者も待たせるものだから「ひょっとしたら...」という思いが結果を見るまではぬぐえないのだ。
結果を伝えられると、安堵で全身の力が抜け、心の奥底から幸福感があふれ出てきた。
人間は、こういう極限の状況にならないと幸せを感じられない面がどうしてもある。
2か月検査を受けたのは2016年の12月21日だったのだが、その時もやはり緊張したものの陰性の結果が出た時は、これで良い年を迎えられる、そう思ったことを覚えている。
二回目の検査を境に、僕はHIVノイローゼから脱却していく訳だが、考えてみるにHIVに感染するのも恐怖だし、そうでなくても、自分自身で重圧をかけてしまって極限状態に陥ってしまうのもなかなかの状況だ、メンタルが弱い僕のような人間だとぺしゃんこになってしまう。
結果を知るのが怖くなって検査にいかない、という選択を取る人もいるだろうし、頭がおかしくなりすぎて自ら命を断ってしまうことにもなり得る可能性だってある。
なぜ、こんなにも追い詰められるかというと、HIVに感染してしまうと、社会から完全に孤立してしまう、と、そう思い込んでいるからだと思う。
この病気が世界で初めて確認されてからというもの、現代は人々にも理解され、医療は発達したとはいえまだまだ感染者が厳しい環境におかれることは変わりない。
ダラスバイヤーズクラブという映画では、主人公のロン・ウッドルーフ(マシュー・マコノヒー)が、主治医である(ジェニファー・ガーナー)との食事で、
「人間にでも戻った気分だ」
と、笑顔で話すシーンがあるが、それはまさに、HIVであること、エイズであることにおける、感染者と非感染者とを分け隔てる象徴的な場面だ。
僕は今回、幸運にもHIVに感染せず、ノイローゼだけで済んだ。
だが一方で、感染の可能性が低いとされる異性間のセックスや、オーラルセックスでも感染報告が挙がっており、逆に感染者との性行為を複数回重ねても感染しなかったケースもあるため、まだまだ謎に包まれている部分は多い。
この病に苦しんでいる人が数多くいる中、明るいニュースが無い訳ではない。
この病が一刻も早く、梅毒のように完治する日が訪れることを願ってやまない。