真夜中のゴルフレンジ

夜勤ばかりが続き、下らない妄想とネガティブな事が頭の中を駆け巡る毎日だったので、いつもと違うことをしようと思い、仕事帰りに同僚とゴルフレンジに行くことにした。

30代もある程度を過ぎてくると、周りにゴルフを始める友人も出てきて、僕は全く興味がなかったのだが、


「毎日同じ行動パターンを取っていると脳みそが退化する」


といったものをどこかで目にし、その意味でもこれまでと行動パターンを変えたかった。


結論からいうと、行って良かった。


まず、真夜中のゴルフレンジは静かで、プレイヤー達も黙々と打ち続ける寡黙な人ばかり。

僕は完全なる初心者なのだが、経験豊富な同僚から手取り足取り簡単な基本のみレクチャーを受けながら楽しむことができた。

道具は一切持っていなかったが、ゴルフボールはレンジで予め用意されているし、その他の物は同僚が貸してくれた。


最初こそ空振りが続いたものの、同僚含め誰も笑う者などいなくて、何度か振っているうちにボールに当たるようになってきた。


グリップの持ち方、クラブの振り方、左腕は真っ直ぐにして曲がらないように、玉を打つインパクトの瞬間は玉の少し前を打つイメージで。

そういったことを聞きながら黙々と打ち続けるのは、実に心地の良いものだった。

僕は高校までサッカーをやっていて、延々と基礎トレーニングを反復練習するのが苦手だったのだが、年齢もあるためか、ゴルフにおいてはそれはなかった。

ゴルフ好きは恐らくやることも教えることも好きなのか、同僚は熱心にレクチャーしてくれたし、僕の隣で打っていた初心者のような方も、同じく経験者である連れが熱のこもった指導を行っていた。

数十球も打つと、夜でもじんわりと汗ばんできて、ゴルフレンジで提供されるおしぼりで軽く汗をぬぐうと何ともいえない爽快感が駆け巡る。


ルフレンジは俗にいう "打ちっぱなし" というものだが、昔勤務していた職場の先輩が、ストレスがたまると「打ちっぱなしにいってくるわ」といって終業とともに会社を飛び出していったことを思いだし、なるほど、これなら行きたくもなる、としみじみ実感していた。

同僚によると、「コースを回らないとゴルフの醍醐味は分からない。コースはとても楽しい」とのことだったが、僕としては現時点ではそこまでやりこむ事は考えていなくて、ひたすら頭を空にしたくて、手段がたまたまゴルフレンジだっただけのこと。

一昔前までは出世の手段としてある程度のゴルフ経験を積むことが重要なポイントでもあったようだが、今はそんなことで出世させるほどに企業に余裕はない。

僕の会社でもゴルフの腕前と出世は比例関係にはない。


だが、ゴルフを楽しむ目的そのものも、以前とは違ってきてもいるはず。

僕のようにストレスで頭を空にしたい、ただそれだけを目的にゴルフクラブを振り続ける人も少なからずいるはずだ。


どちらにしろ、そういった対象が何もないよりはあった方がいいに決まっている。


スポーツ全般、やはり体力を要するものばかりだが、ゴルフならそこまで体力はいらない。

肉体的にも幅広い年齢層が楽しめる事が、人気の理由でもあるのだろう。