タクシードライバー
飲み会の帰りにタクシーを拾って帰ったときのこと。
あまりにも疲れていたので黙っていると、タクシードライバーの方から話しかけてきた。
年のころは大体65歳くらいのおっさん。
何でも今でこそタクシーの運転手をしているが、それ以前は某有名車メーカーの
販売会社社長まで上り詰めたようで、その時の話を喜々として繰り返していた。
そこまで上り詰めて晩年はタクシードライバーなのか?
年金では暮らせないのだろうか?
そういった疑問が単純に沸き起こり、おっさんの話は殆ど耳に入らなかった。
「子供たちにお金がかかるから、働かないとイケない」
それが今も働く理由だそうだが。
タクシードライバーというのは、本当にシンプルに二つに分けられる。
稼ぐドライバーと、そうではないドライバー。
このおっさんが稼ぐ方なのかは分からないが、これまで会ってきたドライバーで
女性男性に限らず、御客さんが個人的についていて稼いでいる人は、例外なくこちらに話しかけてきた。
中には、乗車してくださったお客様一人一人に簡単なお土産をプレゼントし、そうすることでリピーターになってもらい、月40万円くらい稼ぐドライバーもいた。
一方で、空港やバス停、駅前でいつまでもチンタラ客を待つだらしないドライバーもいて、空港から乗車してすぐに降りると、舌打ちされたり態度があからさまに悪くなる者もいる。
待つ時間を流した方が稼げるのになあ、という発想は彼等には無い。
まあドライバー同士で将棋をしているくらいだから仕様がない。
タクシードライバーといえば、大企業をリストラされた中高年の受け皿の一つとして見られているところがあるが、やり方次第で稼げる、という点についてこれほど分かりやすい業界もない。
どんな業界に身を置いても、全力を尽くせばそれなりに稼ぐことは出来る、のかもしれない。
血と骨や闇の子供たちで有名な作家、ヤンソギル氏も、かつては事業に失敗しタクシードライバーをしていたころを、たまたま出版会社の編集者と出会い、それがきっかけで作家の道へと進んだ。
どんな境遇になっても、諦める必要はないのかもしれない。