小津安二郎の良さとは何なのか

何年か前に、小津安二郎氏の映画である「東京物語」が、イギリスで世界一の映画と認められたと報じられたが。

何を基準に世界一なのかは不明であるものの、小津映画に対する評価が高いのは分かる。

 

だが、具体的に、何が、良いのか。

1950年代に描かれた映画が殆どだが、その時代からすでに「古臭い」と一部からは言われてもいたようで。

いま観ても古臭いのは間違いないが、小津作品を全て観た友人に良さをたずねてみると、「昔の日本の良さを描いている」と挙げた。

また、小津氏の映画に欠かせないのは、独身女性として数多く登場する、原節子氏。

 

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原節子の、"節"がキーワード。昔の日本の節度や立ち振る舞いなどが描かれている」とも話した。

 

ちなみに、原節子氏は小津氏の女と常に噂されていたようで、2人ともイメージを守るために、生涯独身を貫いた、というのは有名な話らしい。

 

節度というところでは、確かに作品の中で使用される日本語は、本当に美しい。

例えば"行って参ります"という言葉を頻繁に使用する。

 

行って参ります。

 

そのような言葉は今の時代では殆ど聞かないし、"行ってきます"すら言わない。

加えて、作品の中で子供が知らない大人とすれ違う時などは、軽く会釈や挨拶をする。

これも、すっかり今は見かけなくなった。

 

だが、「変質者が多い、だから誰にでも挨拶をしてはいけない」今はそういう教育が子供にはなされているようで、通り魔的な犯行も多いからこれは仕方がない。

 

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東京物語を最近また視聴したが、あの時代に家族とはいえ人間の微妙な心の動きを巧みに表現しているのは凄い。

もしかすると、心の荒廃みたいなものは戦争に負けた直後から、着実に確実に進んでいて、長い時間をかけて今の時代にそれらのものが噴出している、ということなのかもしれない。

 

とはいえ、小津安二郎氏の映画を知る人も少なくなった。

僕も氏の映画に惹かれ、いくつかの作品を視聴しているものの、何が、どう良いのか、具体的に言葉にすることは難しい。

 

それだけ僕自身も大事な何かが欠落している、ということなのだろう。