生命保険の営業マンとしてスカウトを受けた後輩

最近僕の会社から新卒で入社して数年たった社員が、外資系生命保険会社に転職していった。

元々は自身が入っている生命保険の会社だったようで、その会社の所長から誘われたのがきっかけのようだ。

 

「とにかく、所長が凄いんです。あんな人にあったことは一度もない」

 

どこがどう凄いのか詳しく聞くと、

「その所長は元々は海上保険トップセールスマンだったとかで、売っても売っても給料にバックされないところに嫌気がさして、その外資系生命保険に転職したそうです。
そこでめきめきと頭角を表し、すぐに月収が3,000万円を越え、使いきれなくなったお金をどうするか迷う日々が続いたそうです。ベンツやアウディを家族や親族にプレゼントしても使いきることが出来なくて、そこで更にお金を使うことを目標に芸能人やセレブしか通うことのできないサウナや高級クラブに出入りしていると、有名人に出会うことも多くなって、“それじゃお前、俺の資産を運用してみろよ”という話になり、更にセールスの成績を上げてしまったんだそうです。本当に凄くて、例えば、大阪のお好み焼きが食いたいなあと思ったら、その人は、その日すぐに空港に直行し実際に大阪に行きお好み焼きを食べに行くような人なんです。セリエAのサッカーが観たいと思ったら、イタリアに...」

という感じで話す話す。

 

その後輩はあまり話がうまい方ではなかったけど、恐らく、トップセールスマンになったことによって得られることが出来た経済的・時間的余裕、そして所長のフットワークの軽さを話したかったに違いない。

 

「その人、セールスの腕前自体も凄くて、お客さんにあだ名がつけられていたみたいです、なんだかわかります?」と質問され分からないと答えると、「“夜中3時に来てくれる人”だったそうです。凄くないですか!?24時間、セールスしていたそうですよ」

そのままじゃないか、と思ったが、“成功、成功”というフレーズをしきりに用い、目を輝かせながら語る彼を見て、生命保険セールスマンの話術とその手法とネットワークビジネスの勧誘手法は殆ど同じか似ているなと感じた。

 

ベンツを初めとした高級車と高級そうな身なり、そして時間とお金に不自由しないライフスタイルそのイメージを、植えつけて、売り込んで、引き込む。

 

後輩は、成功というよりも、家族と生活の安定を好むような傾向にあると感じていて、とはいえ、そこまで彼と仲良くも無かったから深く話すことも殆どなく、そんな彼にも成功への意欲があったのか、あるいはそれを植えつけた支社長がいたのか。

それは分からないが、僕の勤める会社は、数年の時間と資金をかけて育てた後輩のような人材を、まんまと他社に持っていかれてしまったわけで。


そのやり方もなかなか周到で、元々は顧客だった後輩と生命保険の担当者が商談で何度か話すうちに、担当者は後輩の会社に対する不満を見抜き、所長と面談をする場を設けバトンタッチ、どこかの段階で所長に完璧に惚れさせて言うがままにしてしまい、
「うちが内定を正式に出すまでは、誰にも話すな」とかん口令をしいていたそうだ。

 

人というのは、特に会社を辞めようかと考えている若い人間ほど実は弱いところがあり、そこを突かれるとすぐに崩れる反面、異変に気づいて先輩や上司が手を差し伸べると、「やっぱり頑張ろう」と、自分の立ち位置をすぐに変える。

そういうもろさというか、危うさというのか、適切な表現ではないかもしれないが、どこかに軽さがある。

それを防ぎ退路を断つために、かの所長はかん口令をしいたのだろう。

いずれにしても、殆ど費用をかけずに彼らは他社が育てた人材とその人脈を、ほぼタダ当然で手に入れたわけだ。


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蛇足だが、僕はこれまで2回、ネットワークビジネスの勧誘を受けたことがある。
回数としては少ない方だと思っていて、どちらも断ったのだが、2人とも昔の上司である。

 

一人は、当時ちょうど会社が傾きかけていた時期で、上司もそれなりのポストにあったから地位を追われることを懸念していたのか、他に収入先を探していたのか知らないが、そういう心の隙間を突かれたのだろう。
「今この地域で行えば、我々が一番になれる可能性も高いし、凄い儲かる」と、やはり金銭的なイメージを売りに誘われた。
日ごろはそうったものを毛嫌いしていた人だったので、この人をここまで変えた"何か"を単純に凄いと思ったが、もちろん当初から断る予定で、上司のプライドを傷つけないように断るのが苦慮した。

 

もう一人は、完全におかしな話をしていて、「朝起きたらアタシの胸の周りに金粉が散らばっていた」とか「○○さまを念じていたら、貸していたお金が返ってきたの」とか、訳の分からないことを話し、笑って聞き流していたが、ある日、「今はブルーベリーのサイドビジネスが面白いの。やらない?」とダイレクトに誘ってきたので
連絡を絶ってしまった。今どうしているか分からない。

 

別に否定している訳ではない、やりたいひとはやればいい。

ただ、生命保険とネットワークビジネスがちょっと似ていることを書きたかった。

 

もしかすると、人がかかわる事の殆どは、その仕組みがある程度似通っているのかもしれない。